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YOKU STUDIO的既存のキャリア論の考察 <プランドハプンスタンス編>


「YOKU STUDIOの視点で新時代のキャリア観を考える」の第4回です。

2回目と3回目は、既存のキャリア論の中から2つを取り上げ、内的キャリア(自分軸)/外的キャリア(他人軸)の問題点を検証してきました。

今回からそれらのどちらにも寄らない価値観に迫るべく、既存のキャリア論を見ていきたいと思います。


・「プランドハプンスタンス理論」とは



ジョン・D・クランボルツが1999年に提唱したプランドハプンスタンス理論は、「計画された偶発性理論」とも訳され、それまで前々回にご紹介した“8つアンカーから自分の5年、10年先の自分のキャリアイメージを設計していく”としたエドガー・シャインが発表した「キャリア・アンカー理論」を始めとする、従来の積み上げ型のキャリア論とは異なる主張で衝撃を与えました。


2004年発表のクランボルツの著書『その幸運は偶然ではないんです!/ダイヤモンド社』はキャリア界隈のみならず、自己啓発の分野でも人気があります。


クランボルツは20019年4月に亡くなられるまで、スタンフォード大学の教育学・心理学の教授として活躍されました。クランボルツは「人は学習し続ける存在」とし、キャリア意思決定に影響を与える要因として次の4つを挙げています。



 


①遺伝的特性・特別な能力・・・性差、民族、身体条件、性格、知能など

②環境的状況・環境的出来事・・・雇用機会や訓練機会の数・質、労働市場など

③学習経験・・・自分が実際に経験したこと、他者を観察することによって得られた経験

④課題接近スキル・・・①〜③を学習した結果、具体的にどうやって実現していくか、など


 


以上の4要因が影響し合って、信念・スキル・行動が結果として生まれるとしました。


クランボルツのこのような考え方の背景にあったのは、1980年代からアメリカで起きた産業構造の変化と経済成長の低下から、従来のキャリア論では対応しきれなくなったことです。


それまで将来の目的を決め、目標に向かって積み上げていくキャリア論では好ましくないとされていた「未決定」を望ましいとし、あえて明確なゴールを定めず現在に焦点をおいてキャリアを考えたのが「プランドハプンスタンス理論」です。


クランボルツが成功したビジネスパーソンを調査した結果、「個人のキャリアの8割は、予測しない偶然によって形成される」と結論付けました。そして偶然の出来事を個人のキャリアに活かすためには以下の5つのスキルが必要としています。



 


①好奇心・・・新しいことに興味を持ち続けること

②持続性・・・失敗しても努力し続けること

③楽観性・・・何事もポジティブに捉えること

④柔軟性・・・こだわりすぎず、柔軟な姿勢でいること

⑤冒険心・・・結果を恐れず、行動すること


 


先述の『その幸運は偶然ではないんです!』では、新しいキャリアを獲得した45人のケースが軽やかに紹介されています。

ですが実際アクシデントに遭遇した時、果たしてすべての人は「幸運な出来事」と捉えられるでしょうか?






・いつ、いかなる時でもポジティブでいられる?




私事ではありますが、私には20代後半で適応障害を発症し、約1年半の通院の末退職した過去があります。


メンタル不調の原因として思い浮かびやすいのは、激務や人間関係等の傍から見ても分かりやすいネガティブな出来事だと思いますが、私の場合は20代半ばで結婚、その後まもなく昇進という、意外にも一般的にはおめでたいと言われるようなポジティブな出来事だったのです。


バブル崩壊後、業務改革の一環として新たなプロジェクトチームが発足され、それに加入するに際し、まったく経験も知識のない私は、その分野について一から勉強することから始まりました。勉強するにも何から始めればよいかさえ分からない。


最初こそ昇進の話は自分を成長させるチャンスと思い、「この期待に応えたい」と純粋に思っていました。帰宅後も、少しでも早く技術を習得して、効率よく、品質の高いものを得意先に提供したいという一心で勉強しました。


幸いなことに、そんな私に助言を与え、指導してくれる上司もいましたし、息抜きにと飲みに誘ってくれる同僚もいました。にもかかわらず、次第に私はその好意を素直に受け取れる余裕もなくなって、本来の「精度の高い仕事を提供する」という目的は「この人たちの期待に応えなければ」に変わり、焦燥感を募らせていきます。


家事に協力的な理解ある夫に罪悪感を感じながら、業務量の多さと定期的に迫る締め切りの為に連日残業し、ただ納期をやり過ごすことの繰り返しでした。仕事に対する充実感どころか、何も感じることもなくなり、大きく体調を崩して受診した結果、先の診断が下り通院、最終的にはドクターストップがかかり、元々は特技であった手話通訳を活かせる仕事として入社した会社を、まったく違う仕事によって9年半で呆気なく退職することになったのです。


その後、心身の回復から本当の意味で過去を昇華し、フルタイムで再就職するまでに7年を要しました。


この経験を経て、「私が適応障害を発症したのは、自分自身と会社組織をきちんと理解していなかったからではないか」と考えるに至り、ここでやっと前述したクランボルツの提唱する5つのスキルをもってキャリアコンサルタントへの道を踏み出しました。その後資格を取得し、現在の仕事に就いて11年になります。


―「特技を活かした仕事をしたい」が、思わぬ出来事によりキャリアコンサルタントに転身した― 


この部分だけ見れば、過去の出来事を前向きに解釈することで、「あの苦労があったからこそ今の自分が在る、あれは幸運な出来事だった」と振り返ることができます。


ですがその渦中にいる時は、そうは思えませんでしたし、私にとって強烈な出来事から回復するには、混乱や怒りを感じながら、受け入れがたい自分を認めるプロセスとして要した期間は必要不可欠であり、その7年間は長いものでした。






・「プランドハプンスタンス理論」の問題点




「常に前向きに学習し続けること」を大前提としても、個人差があります。どんなアクシデントにもすぐに気持ちの切り替えができる人もいるでしょう。


ですが、果たして人はそこまで柔軟でしょうか。


近年の精神障害者保健福祉手帳の取得増加傾向を見ても分かるように、そのような強い人ばかりではありません。時間をかけ内省していく傾向がある日本人、とりわけミドル世代以降は、苦労を美徳とする傾向が強いです。


ルドルフ・シュタイナーは、「カルマ」を運命の打撃として捉え、それを前向きな未来を創っていくための試練として捉えようとしましたが、このような考え方の方が、彼らには馴染みやすいように思います。逆境を乗り越えるまで時間を要する人にとって、今の目まぐるしく変化し続ける現代のなかで、プランドハプンスタンス理論は実装可能とは言い難く、万人向けではないと思われるのです。




キャリア論も価値観の変化に伴い、次々新しいものが出てきます。


次回は「プロティアンキャリア」を取り上げていきます。