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鑑賞ってなんだ?〜私的鑑賞論(再考)〜


こんばんは!
カラカラ帝がイケオジ!とか言っている間に一年が終わりますね。ひいん。

今回は年の瀬にいまいちど、「鑑賞」とはどういったことなのか、なぜ私が勧めまくっているのかについて私自身も再考しながら話していこうと思います。




改めて「鑑賞」を考える





私が今考える「鑑賞」とは「自分の世界観の幅を動かしてくれる行為」です。


ここで世界観の幅を「広げる」ではなく「動かす」としているのにも実は意味があります。


「広がる」と言うほうがなんだかポジティブに聞こえる気もするのですが、個人の世界観とは拡張と収縮を繰り返すことによってスパイラル状に更に広がっていくものだと感じています。


収縮をネガティブなイメージで捉えずに、収縮することも次の次元の拡張には必要な運動性であると考え「広げる」ではなく「動かす」という表現になっています。


そして「欲、鑑賞しよう」における鑑賞では、アート作品や映画、演劇、文学作品などの五感で感じ取ることのできるものを全てを対象とします。








なぜ「鑑賞」するのか?






それを踏まえて、私にとってなぜ「鑑賞」という行為が必要なのかということも再考しました。


私にとって鑑賞は自分を鼓舞するためだったり、方向性を失ったり自分の感覚のみに偏っていると感じるときの軌道向修正のためだったり、鑑賞を通して時たま起きる化学反応のような自分の世界観の変化を楽しむための行為です。





ひとつずつ詳しく見ていきましょう。まず、自分を鼓舞する鑑賞についてです。


私はだいぶめんどくさがりなので何か事を成そうとするときの初動までに結構なエネルギーを必要とします。

そんな時に自分がやりたいことにつながる作品を鑑賞することで「やれる!!やれるで!!やったらぁ!!」と覚醒させています。笑


例えば大学の課題とは関係なく50号(1167㎜×910㎜)のキャンバスの作品を作ってみようとした時がありました。

最初こそやる気に満ちていたものの50号のキャンバスがワンルームの自分の家に届いた瞬間「思ったよりでかいな…」とすぐさまやる気がしぼむ始末。


しかしここでやめたらなんかいや!(キャンバス高かったし!)ということで鑑賞したのが私が目標としていたクリムトの『ユディトⅠ』という作品です。

肌質や表情のなまめかしさ、2Dに近い表現の装飾のデザインが立体感のある人体とマッチしている不思議な画面の構成、肌の中に見られる意外な色の使い方など私にとっては見始めると「私もいつかこの域の表現をしたい!してやる!!」という興奮を生む作品です。

『ユディトⅠ』をなめるように鑑賞したら、ダメ押しで映画『ハチミツとクローバー』も鑑賞しておけば伊勢谷友介演じる森田さんの制作に対するストイックさと蒼井優演じるはぐちゃんの楽しみながら表現活動をするザ・アーティストといった感じのかっこよさを自分に憑依させて「今すぐに制作開始じゃーーーーー!!」となりました。笑


このような鑑賞体験は経験したことのある方もいると思います。





次に、方向性を失ったり自分の感覚のみに偏っていると感じるときに軌道向修正するための鑑賞についてです。

これは将来についてとか、こんな自分でいいのか?といった漠然とした不安に駆られたときや、なんだか周りとうまくいかない…でも私が悪いとも思えない…というモヤモヤしたときにやる鑑賞です。


私は働き始めた年齢がかなり遅く、同じような思想、感覚を持つ人たちで構成されたコミュニティ以外に身をおくことが働くまではほとんどありませんでした。

働き始めてみると学歴や国籍、考え方もこれまでの経験値も違う世界に戸惑うことばかり…。

そんな時に「ぜひ見てほしい!」と彼に教えてもらって見たのが『ブレイキングバッド』でした。

主人公ウォルターの抱える社会の不条理さへの葛藤やアメリカ社会の抱える問題が身に迫って感じられて見ている途中から号泣しながら社会に怒り出すというやばいやつになっていました。(本来そんな号泣要素はないのですが…)

しかしこのドラマのすごいところは「絶対的に悪いやつ」というのがあまりでてこないところです。

悪そうに見える奴の裏に個人にはどうしようもない事情があったり、意外と必死に生きていたりと「悪」と決めつけられない要素がある。


当時の私は職場の人たちに対して戸惑いを感じていて、自分の常識からはみだしたことが起こると「あの人は常識がない」と決めつけることがよくありました。

しかし『ブレイキングバッド』を見当た後に「絶対的に悪い人はいない。というか良い、悪いってジャッジするのやめよ」と思いたちました。

常にこの感覚を持てているのかと言われればそうでないこともまだ多々ありますが、この感覚自体を獲得できたのはこの作品にであったからだと思っています。


きっと同じように『ブレイキングバッド』を見ても見る人によって感じ方は様々でしょう。

鑑賞時の自分に即してその時の状況に最適なスタンスを自分で選択できるというのも鑑賞の楽しさの一つだと思います。





最後は、鑑賞によって起こる化学変化を楽しむための鑑賞についてです。

時折、遠い昔に鑑賞したものとたった今鑑賞したものがガチーーーンとかみ合って「あれはそういうことだったのか‼え⁉てことはこれとこれにも興味出てきた!!」というビッグバンのような世界の広がりに出会うことがあります。


私は中学生のころから『時効警察』が異常に好きで何度もレンタルしては繰り返し見ていました。

『時効警察』の特徴は小ネタ満載なところです。様々な作品のオマージュやあるあるネタの宝庫でした。

あるあるネタはすぐに理解できるものも多いのですがオマージュについては元ネタを知らないとぽかーーーんとなってしまうものもかなりありました。

その後『時効警察』の三木聡監督の作品である『熱海の捜査官』にもハマりましたがこれもまたぽかーーーんとなるところが多々ある…。


時は流れて今年に入って『ツイン・ピークス』を初めて鑑賞しました。

そこには長年ぽかーーーんとなっていたオマージュネタの元ネタがいっぱい!!十数年かけて「あれはこういうことだったのか!!」となりスッキリ!

ここから『ツイン・ピークス』の監督であるデヴィッド・リンチに興味がいって調べてみたら2021年にもリメイク公開されたSF作品『DUNE/砂の惑星』の1984年版の監督でもあったことを知りびっくり!(主演はツイン・ピークスのクーパー捜査官を演じたカイル・マクラクラン!)

2021年版をすでに見ていたので「なつかしー!もっかい見てみよう」と思ったら21年版はpart2公開決定だって⁉見る!!もう絶対見る!!…と途中からその時の興奮を思い出して止まらなくなってしまいましたがこのように時間を飛び越えて突然作品と作品が繋がり、新たな興味、欲望を喚起することがあります。


今回は時間を例にとりましたがときにはジャンルも超えて繋がり、思いもしない興味、欲望をひきだすこともあります。

こういった予期せず繋がり、そこから新たな欲望がうまれるとき私の脳内細胞が場内総立ちでスタンディングオベーションをしているような感覚になります。拍手喝采です。

自分の鑑賞してきたものが新しいものとつながって明日も生きていきたくなる欲望の一つになっていくこの感覚が私にとっては何にも代えがたい快感となっています。

もちろんこの快感を体感するには幅広くたくさんの作品を鑑賞することが必要になります。感じるまでちょっと時間がかかると思います。

だとしても脳内スタンディングオベーションは一度は体感していただきたい!これを体感した直後の視界が一気に開けるような感覚は最初にお話しした「世界観の幅」が動いたことが感じられる瞬間でもあります。

普通に生活していて自分の世界観が動いたことを体感できるのはじわじわとではないでしょうか。世界観の動きを一気に感じられるのは鑑賞のもつ特権だと思います。


そしてこの化学変化を経験すると必ずと言っていいほど世界観の収縮が訪れます。

強烈に広がった世界の中から自然に自分の好みに即したものを見始めます。自分が「これいいな!」と思えるものだけを選び取って鑑賞し始めます。

一見ただ自分の好み以上には世界観が広がっていないように感じますが、一度この鑑賞の化学変化がおこるとそれまでの「自分の好み」に新しいジャンルが結びつき化学変化以前よりも一回り広い範囲で世界が見えるようになるはずです。


鑑賞の収縮期間は、この一回り広い新しい世界観をじっくり堪能する時間です。

本屋さんでじーーーーーっくり本棚を見てまわっているとよく行くお店のお気に入りの棚であっても新しく「こんな本あったのか⁉︎面白そう!」と思いがけずいい本出会うように、自分の今の世界観をじっくり見つめると新しい欲望、興味が喚起されるかもしれません。

こんな世界観の動きを楽しめたら生きていくのも面白いかも!

そのきっかけをくれるのが私にとっての鑑賞という行為であり、面白く生きたいという欲望を満たしていくために必要な行為なのだと思います。







微力だとしても…






私は日常的に眉間に皺寄せながら力んで生きてしまいがちな人間です。


真面目に生きることは大事ではありますが力みすぎず、真剣になりすぎず、生きてくことそれ自体を楽しんでいけたら…そんな欲望を鑑賞するたびに喚起し、満たしてくれる鑑賞という行為の良さを、もし私と同じような欲望を持っている人がいるなら伝えたい!というのが皆さんに鑑賞をお勧めしまくる理由の一つです。


もう一つには、私が鑑賞の良さを発信することによってアートやエンタメの制作の側に立つ人たちに多くの活躍の場が開かれて欲しいという理由もあります。まだまだ微力すぎるところが難点ですが…泣


今回は私の経験からのお話ばかりになってしまいました。しかし一年の総まとめとしては充実した内容になったと感じています。


来年には鑑賞会などの機会を作っていけたらなと思っています!また来月お会いできると嬉しいです。

では皆さま、良いお年を〜!






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