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ケア(社会的支援)と「欲」
今回は筆者のかつての経験を振り返りながら、YOKU STUDIOの活動を通じて、今の自分は何を感じ、支援とは何かを改めて考えてみたいと思います。
ケアやセラピーの分野には、様々な有資格者や経験者がいます。
まずはそれぞれの役割を確認していきます。
・ケア・セラピーの役割とマズローの欲求5段階説
キャリアコンサルタント
キャリアコンサルティングとは、「労働者の職業選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うこと」(職業能力開発促進法・第二条第5項)であり、キャリアコンサルタントはそれを行う専門家です。
ソーシャルワーカー(ソーシャルワーク)/ケースワーカー(ケースワーク)
病気や障害などの困りごとを抱えている人や、経済的な問題を抱えている人の相談に応じ、問題の把握と必要な支援の策定・手続きといった社会資源の提供を行う専門職です。
就労支援員
就労移行支援とは、障害者総合支援法を根拠とする障害者への職業訓練制度であり、就労支援員は求職活動の支援や職場開拓等を行う専門家で、具体的には以下のような支援を行います。
就労準備・・・PC訓練、ソーシャルスキルトレーニング等
就職活動の支援・・・面接練習、応募書類添削、企業面接への同行等
就職後のアフターフォロー・・・就職後、企業へ定期的に訪問し、定着指導を行う等
それぞれ立場は違えど、各専門家が相談者の間に立って、地域や病院等への連携・調整を行い、相談者の自立に向け支援をしていくことが目的です。
そして、支援を学ぶ上で必ず目にするのは、アブラハム・マズロー(1908~1970)の欲求5段階説です。
マズローはニューヨーク州生まれの心理学者であり、「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生き物である」と仮定し、自己実現論として以下のように展開しています。
第1欲求(生理的欲求)・・・ 生きるために必要な基本的・本能的な欲求「食欲」「睡眠欲」「排泄欲」等
第2欲求(安全欲求)・・・ 安心・安全な暮らしへの欲求
第3欲求(社会的欲求)・・・友人や家庭、社会に所属したい欲求。「帰属の欲求」
第4欲求(承認欲求)・・・他者から認められたいという欲求
第5欲求(自己実現欲求)・・・自分の世界観・人生観に基づいて「こうありたい自分」になりたいと願う欲求
・就労支援における「欲」の重要性
私はかつて公的機関で職業相談業に従事していました。長い職業相談経験の中で、求職活動が遅々として進まない人の中には、生活困窮や病気等を抱えた人もいました。
求職活動を阻む要因が判明したら、タイミングを図り、本人の気持ちを尊重しつつ、「情報提供」「提案」として、然るべき各相談窓口を案内します。当然のことながら、大抵の人は最初は抵抗感を示します。しかし、面接に行くにも、ほとんどの企業は写真付きの履歴書が必要です。面接場所に行くにも交通費がかかります。ある程度身だしなみが整っていなければ、面接担当者にいい印象を与えません。ですから、私たちの立場からすると、就職という目的達成のためには、阻害要因を排除し、まず生活基盤を整えることが優先になります。
マズローでいうところの「生理的欲求」と「安全欲求」です。就職相談とは関係ないように思われるかもしれませんが、これも私たちの役割の一つです。
抵抗を示していた人も、いよいよ生活が立ち行かなくなると役所に相談します。そして各種相談・申請が通るとひとまず生活は安定します。ここまできたら、マズローの理論上で言えば、安全欲求を満たした後は、「社会的欲求」に移行するはずです。求職活動もスムーズになるかと思えば、そうとは限りません。
生活基盤が整い、就労を支援する人や生活面や病気等の不安を相談できる機関とも繋がり、求職活動を阻害するものは一見なくなったように見えるのに、就労意欲は喚起されない。むしろ社会資源(仮に生活保護とします)を活用する方以前の方が、積極的に仕事探しをしていた矛盾には、自分と他者の「欲」が関係していると思うのです。
一つは自分の欲生活保護を利用する前は、まさに明日の生活も危うい状況だったわけですから、なりふり構わず仕事を探さざるを得なかった。それが「生存」という欲を満たせた今、生存の次に変わる欲が見いだせない為に就労意欲が低下していることも考えられます。
二つ目は他者から押し付けられた欲生活保護受給者は、生活が安定すると、高齢や病気、重度の障害等といった特別な事情がない限り、就労へ向けて支援チームが組まれます。場合によっては臨床心理士や精神保健福祉士も加わり、精神面のケアもしながら就労を支援していきます。でも、この就労支援チームの「自立してほしい」という思い=欲が、生活保護受給者自身の欲と上手く嚙み合わないと、就労意欲の喚起にはつながらないのです。
ここで私が個人的に気になったことがあります。就労支援チームが一生懸命になるあまり、当事者本人が置き去りになるケースです。
一般的に再就職は離職後3か月以内が肝心と言われます。それは単純に離職期間が長期になればなるほど、応募する企業への印象が悪くなるというだけではなく、離職以降、それまでの生活リズムが崩れてしまうこと、そして社会に出ることが不安になり、再就職の第一歩が踏み出せなくなるといったデメリットがあるからです。
ですから支援チームも一日も早く就職させようと躍起になり、本人が「何をしたいか」よりも、何ができるか、就職しやすい職種は何かに焦点を当てて応募させるケースが一部見受けられます。たとえそれで就職したとしても、就労形態によっては働いても就労(収入)申告する必要があり、働いた分、生活保護費が差し引かれるという生活保護の制度上の問題から、「せっかく働いても差し引かれてしまうのであれば、働くのは無駄」という思いから、就労することに意味を見出せなくなるケースもあるのです。
ここで支援者の擁護をするつもりはありませんが、上記に挙げた専門家たちの共通する目的は繰り返しになりますが、相談者の自立です。そのために志をもって、学校や現場で専門の知識を学び、技術を身に付け、自己研鑽をしている支援者は多くいます。
そのような人たちは、高い理想と正義感に溢れていて、相談者を思うがあまり、良かれと思ってした行いが、傍から見ると支援者の正義(価値観)を押し付けているように感じられるのでしょう。本来ならば、このような支援を必要としない社会が望ましいのでしょうが、これらの支援を必要とする人がいることも事実でなのです。
支援者として、自分への戒めとしても忘れてはならないのが、自分自身を専門家としての自負するとともに、決して自分の技術や経験に依存し、自分に酔いしれない事だと思っています。愛をもって相談者と向き合えなんてことは、柄でのないので言えませんが、常にニュートラルな「眼差し」で目の前の相談者を見ること。
今はなんでも法整備が進み、一見多様性が認められつつあるようにみえますが、私はその反面、法律でがんじがらめのルールを設定して、返って当事者の自由を奪っているのではないかと思うことがあります。ルールよりも目の前のその人に関心を寄せ、その人の「欲」を知ること、それが真の自立への支援なのではないでしょうか。