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【対話が治療になる⁉︎】『オープンダイアローグ とは何か』を要約&考察
こんにちは!YOKU STUDIOの中の人です。
今回の「欲、生きる」ゼミ限定マガジン記事のテーマは、精神科医・斎藤環氏による著書『オープンダイアローグとは何か』(医学書院、2015年)です!
みなさんは、「オープンダイアローグ」という言葉を聞いたことがありますか?
精神医療やケアの領域で、かなり脚光を浴びている治療法のことなんです!
「オープンダイアローグ open dialogue」を直訳すると「開かれた対話」。
まさにその名が指し示すように、治療の対象となる患者やその家族と、数人の専門家によって構成されるグループで、定期的に、何度も何度も「対話」を重ねていくという、非常にシンプルな治療です。
「ただ対話するだけで治るわけないよ…!」と思いましたか?
実はこのオープンダイアローグ、特に統合失調症の治療としてかなりの実績があるのです。
その起源であるフィンランドでは、入院期間の短縮、投薬の必要の減少、再発の抑制などに効果があると認められ、公的な医療サービスにも組み込まれていると言うのです。
(ただ、オープンダイアローグは、最重度の統合失調症を含むあらゆる精神障害を持つ人に適用できる治療法とのこと)
自身も精神医療の現場で経験を積み重ねてきた斎藤環氏が魅了されたオープンダイアローグとは、いったいどんな手法なのか?どのような可能性を持つのか?
そしてその考え方を、精神医療以外の文脈につなげ、私たちの生活のなかに生かしていくことはできるのか?
じっくり考えていこうと思います✨ぜひお付き合いください!
・オープンダイアローグの起源
そもそもオープンダイアローグは、フィンランドの西ラップランド地方で開発されてきた治療法で、家族療法を専門とする臨床心理士でユバスキュラ大学教授のヤーコ・セイックラ氏がその中心人物です。
セイックラ氏が専門としていた「家族療法」というのは、患者一人だけではなく、その家族を巻き込んだかたちで、治療を進めていく方法(家族内のシステムにアプローチし、それを新しく再編成していくことによって、患者の病状を改善していこうという考え方に立ちます)のことです。
この方法論が、患者とその家族、そして複数の専門家によるチームによって構成される、オープンダイアローグの仕組みの原型になっていることは明らかです。
また、オープンダイアローグの基礎として、やはり1980年代にフィンランドで開発された「ニーズ適合型アプローチ」があることも本書で指摘されています。
ニーズ適合型アプローチとは、「社会ネットワークを活用しつつ、精神症状を緩和し、患者への理解を深め、社会参加を促進するため」の治療法であり、「クライアントだけではなく、家族や友人の参加が求められ、それぞれの立場のニーズに合わせて、治療プランも柔軟に変更されるのが特徴」とのこと(『オープンダイアローグとは何か』、30頁)。
従来のように医者と患者とが一対一で診察室で向き合い続けるのではなくて、患者をその一員とするコミュニティ単位で、回復後の社会参加までを見据えて治療を行っていこう、という考え方が、オープンダイアローグのベースにあるのです。
本書では以下のように語られています。
(前略)むしろ私が尊敬している優れた臨床家の多くが、この治療法に強い関心を示しています。
それはある意味当然のことで、オープンダイアローグとは、これまでの長い歴史のなかで蓄積されてきた、家族療法、精神療法、グループセラピー、ケースワークといった多領域にわたる知見や奥義を統合したような治療法なのです。
経験を積んだ専門家ほど、その手法と思想を聞いて「これは効かないほうがおかしい」と感じてしまうのは無理もありません。
私自身が文献を読んだだけで、これほど入れあげてしまったのもおわかりいただけるでしょう。それほどこの「開かれた対話」には確たる手応えがあったのです。
(同書14頁)
オープンダイアローグの特徴は、家族療法やニーズ適合型アプローチの長所を生かしつつ、何よりも対話に、しかも価値判断のない自由な対話に、重きを置くところにあると言えます。
そして、それこそが斎藤氏をはじめとする熟練の臨床家たちが、オープンダイアローグに強い関心を向けることにつながったのです。
・対話のなかで言語=物語を獲得し直す
「開かれた対話」、つまり言葉のやりとりによって、患者の直面している現実を新たなものに変えていこうとするオープンダイアローグは、強い言葉への信頼のもとに成り立っている治療法です。
統合失調症の患者は、発症したての時、周囲からの強い圧迫感や不安を感じ、正体がわからない圧倒的な恐怖体験に圧倒されています。
その恐怖体験は、言語化できないものだと言います。(それが、いくぶん理解しやすい形に落とし込まれたのが、一般的に統合失調症の主症状として知られる、妄想や幻覚なわけです)
そのような患者にとって、「病的体験の言語化=物語化」(同書36頁)ができるようになることは、大きな治療的な意味を持ちます。
この「病的体験の言語化=物語化」を、複数人の言葉が自由に飛び交う空間のなかで行っていき、患者が他者・社会との関係のなかで、自らの言語=物語を獲得し直していくこと。
それこそが、オープンダイアローグの目標なのです。